無償返還届のある土地を
「第三者へ売却+定期借地権」で評価減できるか

― 一般定期借地権の底地簡便法・適用除外・総則6項という三つの関門 ―

この記事の位置づけ
同族法人が親個人の土地の上に建物を建て、「土地の無償返還に関する届出書」を提出しているケースは数多くあります。近年、この建物を第三者(不動産特定共同事業=不特法に基づく匿名組合など)へ売却し、あわせて土地に一般定期借地権を設定して相続税評価を下げる、という提案を見かけることがあります。本記事は「その提案で本当に評価が下がるのか」を一般論として整理したものです。特定の個別事案を述べるものではありません。

1. まず現状の評価を正しく押さえる

「土地の無償返還に関する届出書」(以下、無償返還届)が提出され、かつ地代の授受がある賃貸借であれば、地主側の土地は自用地価額の80%で評価されます(昭和60年6月5日付 直資2-58 第8項)。借地権はゼロ評価です。

見落とされがちなのは、借主が地主の同族会社である場合、控除した20%は消えてなくなるのではなく、その同族会社の株式評価(純資産価額)に借地権として計上される点です。家族全体では「土地80%+株式に20%」で概ね100%が保たれ、同族の枠内では純粋な圧縮になっていません

前提の注意
無償返還届が出ていても、地代がごく低額で「使用貸借」と評価される場合は、土地は80%ではなく100%評価です。80%評価は「固定資産税相当額を超える地代のある賃貸借」であることが前提です。

2. スキームの狙いと「3割減」という仮説

提案の典型的な狙いは次のとおりです。

  1. 同族法人が保有する建物を、第三者(不特法の匿名組合など)へ売却する。
  2. 売却に伴い、地主と第三者の間で一般定期借地権(存続期間50年など)を新たに設定する。
  3. 借主が同族法人でなくなることで、従前の無償返還届の前提が外れ、土地は「定期借地権付きの底地」として自用地の約3割減で評価できる――という見立て。

この見立ては、後述する「底地割合の簡便法」を念頭に置いたものと考えられます。しかし「無償返還届が外れること」と「3割減が得られること」は別の問題で、後者には三つの関門があります。

3. 関門A:無償返還届は借主交代で外れるか(ここは概ね妥当)

無償返還届は、貸主・借主の連名で、特定の賃貸借契約に紐づけて提出するものです(法人税基本通達13-1-7)。建物が第三者へ売却され、地主と新しい借主との間で別個の定期借地権契約を締結するのであれば、従前の契約は終了し、従前の届出が前提としていた当事者・契約関係は失われると解する余地があります。

この限りで「従前の無償返還届の効力がそのまま新しい関係に及ぶわけではない」という理解自体は方向として妥当です。ただし、貸借関係に変動が生じたときは速やかに税務署へ報告する運用が求められます。問題は、届出が外れた“後”にどう評価されるかです。

4. 関門B:一般定期借地権の底地評価と簡便法

定期借地権付きの底地は、原則として「自用地価額 − 定期借地権等の価額」で評価します(財産評価基本通達25(2)、定期借地権の価額は27-2)。この定期借地権の価額は設定時に授受された権利金・保証金等の経済的利益と存続期間を基礎に計算するため、権利金の授受がほとんどなければ底地の減額もわずかにとどまります。原則法では「3割減」は自動的には出ません。

「3割減」の正体=底地割合の簡便法

期待される3割減は、簡便法(平成10年8月25日付 課評2-8、国税庁タックスアンサーNo.4612)によるものです。設定直後は次のとおり単純化されます。

底地価額 = 自用地価額 × 底地割合(設定直後)
借地権割合の地域区分底地割合設定直後の減額
C地域55%45%減
D地域60%40%減
E地域65%35%減
F地域70%30%減
G地域75%25%減

この表の数字が「約3割減」の出どころです。ただし、これが使えるかどうかが最大の関門になります。

5. 関門C(最重要):簡便法には「適用除外」がある

簡便法は無条件では使えません。次の場合は簡便法を用いず原則法(27-2)に戻ります(タックスアンサーNo.4612、課評2-8)。

適用除外となる場合本記事の類型での当てはまり
借地権割合A地域(90%)・B地域(80%)、または取引慣行のない地域都市部の高評価地はA・B地域のことがあり、その場合は理由を問わず簡便法不可
借地権者が設定者の親族・同族法人等の特殊関係者である場合建物を第三者へ売る設計なら、第三者性が真正であれば原則当たらない
第三者間の設定であっても、税負担回避行為を目的としたものと認められる場合ここが本丸。相続税評価の引下げを主目的に迂遠な形式で組成すると該当リスクが高い
「消えれば3割減」という論理は成立しない
借主を第三者にする設計そのものが「税負担回避を目的とした設定」と評価されれば、簡便法は使えず原則法に戻ります。原則法では、権利金がほぼないと定期借地権の価額が小さく、底地はほぼ自用地価額(ほぼ100%)に近づきます

6. 見落とされがちな「逆効果」リスク

簡便法が否認された場合
原則法に戻り、権利金がなければ底地はほぼ自用地価額へ。認定課税を避けようと新契約でも無償返還届を出せば80%評価に逆戻り。出さなければ100%近くへ上昇し、現状(80%)より評価が上がる=逆効果になり得ます。
仮に簡便法が通った場合でも
現状すでに80%評価(20%減)を享受しています。仮にE地域で底地65%が認められても、増分は自用地比で約15ポイント(80%→65%)にとどまります。「3割」は自用地100%を起点にした数字で、実質メリットは想定より小さいのです。

※ 数値例:自用地1億円の土地なら、現状は8,000万円評価。E地域で簡便法が通れば6,500万円で1,500万円の追加圧縮。否認され無償返還届も出さなければ1億円近くとなり、現状より2,000万円ほど評価が上がる計算になります。

7. 地代・権利金の設定と認定課税

認定課税を避ける「相当の地代」は、原則として更地価額(通常は相続税評価額またはその過去3年平均)の年6%程度が目安です(法人税基本通達13-1-2、タックスアンサーNo.5732)。これに満たない地代で、かつ権利金の授受もなく、無償返還届も出さずに定期借地権を新設すると、次の課税が問題になります。

「相当の地代でも、権利金方式でも、無償返還でもない」中途半端な地代設定は、どの整理を採るかで課税が大きく変わり、「減額しつつ無認定」を同時に満たすのは容易ではありません。

8. 総則6項という最後の関門

最高裁令和4年4月19日判決(いわゆるマンション評価事件)は、通達評価額と時価に著しい乖離があっても直ちに総則6項(財産評価基本通達6項)が適用されるわけではないとしつつ、近い将来の相続を見越した相続税負担の軽減を意図・目的とした行為があり、他の納税者との間に看過し難い不均衡=実質的な租税負担の公平に反する特別の事情があれば、路線価等によらず時価で課税することを是認しました。

類型的にリスクが高くなる要素
  • 高齢の名義人が、相続開始後はるか先まで及ぶ長期(例:50年)の権利を新設する経済的合理性の乏しさ
  • 相続税評価の引下げを主目的に、不特法・匿名組合という迂遠な形式を用いること
  • 建物売却・地代改定・関係者間の資金移動などが同族・関連当事者間で完結していること(相続税法64条・9条の論点)
  • 匿名組合の出資者に同族関係者が含まれると「第三者性」自体が崩れる

9. まとめ:判定の地図

  1. 現状評価の確認:無償返還届+賃貸借なら土地80%+同族株式に20%。すでに20%減を享受している。
  2. 届出は外れるか:借主が真正な第三者に替われば、従前届出の前提は外れ得る(ここは概ね妥当)。
  3. 簡便法は使えるか:地域区分がA・B地域なら不可。税負担回避目的と見られれば不可。使えなければ底地はほぼ100%へ。
  4. 地代設計は整合するか:相当地代未満・権利金なしは認定課税の火種。無償返還届を再提出すれば目的未達。
  5. 総則6項に耐えるか:高齢・長期・迂遠な形式は時価課税リスクを高める。
結論の要旨
「無償返還届が外れる」ことは方向として正しくても、「だから確実に3割減」という論理は飛躍です。うまくいっても実質メリットは自用地比15ポイント前後にとどまる一方、否認されれば逆効果になり得るというリスクとリターンの非対称が大きい類型です。実行を検討するなら、地域区分の実地確認・権利金や地代の整合設計・第三者性の担保・税務署への事前照会を前提とすべきです。

引用根拠

通達法人税基本通達13-1-7(無償返還届・権利金認定見合わせ)・13-1-2・13-1-3

通達相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱いについて(昭和60年6月5日付 直資2-58)第8項

通達財産評価基本通達25(2)・27-2・27-3(借地権・定期借地権・底地の評価)

通達一般定期借地権の目的となっている宅地の評価(平成10年8月25日付 課評2-8)/タックスアンサーNo.4612(底地割合・適用除外)

通達タックスアンサーNo.5732(相当の地代 年6%)

法令借地借家法22条(一般定期借地権)/相続税法9条・64条/所得税法59条/租税特別措置法69条の4(小規模宅地等の特例)

判例財産評価基本通達6項(総則6項)、最高裁令和4年4月19日判決

本記事は一般的な情報提供を目的とした解説であり、特定の個別事案についての税務判断・助言を行うものではありません。定期借地権付き底地の評価やスキームの可否は、地域の借地権割合・権利金や地代の実態・関係者の関係・組成の実質等により結論が変わります。実際の適用にあたっては、路線価図・契約条件等の資料を確認のうえ、税務署への事前照会や専門家への個別相談を前提としてください。記載の通達番号・取扱いは作成時点の情報に基づきます。